大判例

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東京地方裁判所 昭和31年(ワ)1551号 判決

証拠によれば次の事実が認められる。即ち、訴外内田芳種は昭和二十八年七月二十九日以前に原告から合計金百三十万円を借受けていたが、その利息の支払もできなかつたところから、右同日原告の請求によつて右借受元金百三十万円に利息として金五十万円を加算した金百八十万円の支払を担保する目的で、その所有にかかる本件建物に根抵当権を設定することを承諾した。かくして原告と内田芳種との間に締結された契約の要旨は、内田芳種又は同人が代表取締役に就任している訴外株式会社内田平太郎商店のために原告が手形割引をしたことによる極度額金百八十万円迄の元本債権及びこれに対する遅延損害金債権を被担保債権として本件建物に根抵当権を設定し、その契約期間は昭和二十八年七月二十九日から昭和二十八年十一月十八日迄とする(但し契約期間については登記されなかつた。)というにあつた。それと同時に原告と内田芳種との間に、もし前記根抵当権の被担保債権が弁済期に支払われないときは、その弁済に代えて本件建物の所有権を原告に移転する旨の代物弁済の予約も締結された。内田芳種は原告に対する前記金百八十万円の支払のために昭和二十八年九月五日付で原告主張の如き約束手形一通を原告に振り出した。原告は右約束手形の支払を拒絶されたので昭和二十九年九月中前記代物弁済の予約を完結する意思を内田芳種に対してなした。以上のとおりの事実が認められる。

被告は、原告が本件建物の所有権を取得したことによつてその弁済に代えた前示約束手形債権は、その発生の時期及び原因の何れからいつても前記根抵当権の被担保債権に当らないから、原告はその代物弁済によつて本件建物の所有権を取得したとはいえないと主張するのでこの点について考えるに、

(1) 前記約束手形債権発生の時期が前記根抵当権設定契約成立の以前であることは前掲認定事実に徴して疑のないところである。しかしながら根抵当権は単に将来発生すべき債権を担保するためばかりでなく、その設定当時既に現存する債権を被担保債権とすることができるものであるところ、前記認定よりすれば、原告及び内田芳種間の根抵当権設定契約は当時原告が取得していた前示約束手形債権をもその被担保債権と定めたことは極めて明白であり、右根抵当権設定契約について作成された契約書にも右約束手形債権を被担保債権から除外する趣旨の記載は全然見当らない。

(2) 次に原告が前記約束手形を取得した原因についてであるが、前記認定の如く、原告は訴外内田芳種に対して前記根抵当権設定契約前即ち昭和二十八年七月二十九日前に貸付けた合計金百三十万円及びこれに対する利息金五十万円の支払のために右約束手形の振出を受けたものである。ところで原告と内田芳種との間に締結された根抵当権設定契約においては、原告が内田芳種のために手形割引をしたことにより生ずる債権を被担保債権とする旨約定されたことは明らかなところであるが、思うに手形割引とは、満期未到来の手形を通常は裏書譲渡の方法によつて売却し、手形金額から割引料と称して満期迄の利息その他の費用を差引いた対価を授受することをいうのであつて、手形を支払方法として消費貸借契約を締結する手形貸付とは区別される別個の行為ではあるが、世上一般においては屡々手形貸付の意味をも含めて手形割引なる言葉が用いられていることは顕著なる事実である。本件においても、原告が根抵当権によつて担保される債権は、原告が内田芳種のために手形割引をしたことによつて生ずる債権と約定されていたのであるが、ここにいわゆる手形割引とは世間一般の用例に従つて手形貸付をも含めた意味のものであることは、証人内田芳種の証言から十分に窺い知られるのである。してみると原告が内田芳種の振り出した金額百八十万円の約束手形を取得したことによつて有するに至つた債権は、前記根抵当権によつて担保されるべき債権に当るものと解するに何等の支障はないものというべきである。

原告と内田芳種との間において設定契約にかかる根抵当権について期間の登記はされなかつたけれども、当事者間において期間を昭和二十八年七月二十九日から同年十一月十八日迄と約定したことは前記認定のとおりであるから、原告は右期間満了当時における債権額に基いて根抵当権を実行できるのは勿論であるが、前記認定の如く原告と内田芳種との間では根抵当権設定契約と同時に、もし右根抵当権の被担保債権が弁済期に支払われないときには、その弁済に代えて本件建物の所有権を原告に移転する旨の代物弁済の予約が締結されたのであるから、原告はその予約を完結することによつて本件建物の所有権を代物弁済として取得することも可能なわけである。ところで前記根抵当権設定契約の基礎たる契約関係が昭和二十八年十一月十八日の経過と共に期間満了によつて終了した当時、原告が右根抵当権の被担保債権として前記約束手形に基く債権を有し、その代物弁済として本件建物の所有権を取得すべく内田芳種に種して昭和二十九年九月中代物弁済の予約完結の意思表示をしたことは前記認定のとおりであるから、原告は右によつて本件建物の所有権を取得するに至つたものというべく、原告が先に本件建物についてなした代物弁済に基く所有権移転請求権保全の仮登記の、本登記を昭和二十九年十月八日に経由することによつてした本件建物所有権の取得登記は有効なものであるといわざるを得ない。

してみると被告が内田芳種に対する債権を担保するためになした抵当権設定登記及び所有権移転請求権保全の仮登記は何れも原告のため経由された前記所有権移転請求権保全の仮登記に順位において遅れるものであることは明らかであり、しかも既に原告が右登記の本登記を経由した以上、被告は右登記をもつて原告に対抗し得ないものというべく、従つて原告のため右各登記の抹消登記手続をなすべき義務を負うべきことは当然であるとして、原告の本訴請求を理由ありと認容した。

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